ゲーム感想:怪奇!ルサルカ彗星館”潜”

怪奇!ルサルカ彗星館“潜”の詳細情報 : Vector ソフトを探す!

 ウディタのフリーゲーム。所要時間は本編クリア時点で10時間、クリア後のおまけダンジョンが+6時間程度。紛うことなき短編。
 前作との関係について触れている項目はネタバレを含むので注意。

概要

 大学生の飛び級少女が幼稚園の遠足の引率を任され、水族館「ブルーアーク海洋博物館」に訪れる。はぐれて行方が分からなくなった園児を探すうちに、とてつもない案件に巻き込まれる…という話。
 恐怖!ムルムル遺伝症の続編。今回もRPGだが、アイテム収拾関連の特性が尖った造りになっている。シナリオはおおよそ独立しており、ルサルカ側を単体で遊んでも問題はない。

評価点

  1. アイテム厳選に特化したシステムが斬新
     要らないランクの装備は、予め設定しておくことで手に入れた瞬間に換金。ありそうで意外と見ないシステム。前作がアイテム欄の膨張による負荷増に悩まされていたことへの反動らしいが、良いものを入れたと思う。
     ただ代償として装備アイテムが汎用的なものになり、性能や説明テキストが味気なくはなっているが、まあこれは短編だからって点の方が大きいかも知れない。例えばアイテム図鑑を作って、そこからテキストを見返せるようにしたりすれば、自動売却との共存はある程度可能な筈。
  2. 探索要素が楽になった
     前作と比べてのポイント。歩行スピード3段階の調整がキーひとつで出来るようになったのと、シンボルエンカウント制の導入により、マップ探索がかなり楽になった。前作は歩行速度だけでなく、エンカウント頻度も絶妙に鬱陶しかったから、かなりストレスフリーに。
     欲を言えば何らかのキーを押している間だけ1段階早く歩ける機能(他作品だとShiftダッシュが多いか)もあれば歩行面は完璧だったが、まあ現状でも十分。
  3. タイトルに偽りなし
     幻想的なマップに独特な画風の敵グラフィック、そしてBGMがまさかの全編クラシック。これで怪奇な空気にならないわけがない。好みの差こそかなり出ると思うが、雰囲気ゲーとしての一面は万全と言える。
  4. 出典情報付きのサウンドテストがある
     フリーゲームはいいBGMがあった場合、ネットを探せば大抵は提供元から音源をフリーで手に入れられるという特性がある。曲名の情報が取れるモードはそういうことをしたい時の特定に便利。まあ本作の場合はクラシック曲にしか対応してなかったけど、有り難い情熱なのは変わらない。

問題点

  1. 展開・光景に刺激がない
     致命傷。敵は九分九厘海洋生物。マップも全編屋内。人物との会話も極端に少ない。「新しい街(集落)に行く」みたいなパートはほぼ丸々すっぽ抜けている。
     この辺は舞台が水族館なのと、一般人には認知できないキャラがパーティメンバーに居る点が要因として大きいと見える。まあ理由は察せても、どうしても減点どころになる。
  2. クラシックがいまいち合わない
     クラシック自体は別に好きだし、本作の雰囲気作りにも効果を出しているが、主要BGMにするっていうのは流石にちょっと無茶を感じた。長く色々と展開する曲が多いから同じ曲内でも盛り上がりや音量に極端なムラがあるし、何より後ろで流すには主張が激しいものが多い。要するに、やや浮き気味に感じるケースが多かったということ。もっと楽曲や使用箇所の厳選が必要だと思う。
     まあ終始落ち着いた曲調の楽曲を使っているシーンは大体マッチしていたし、戦闘BGMとマップBGMを統一することで長い曲でもちゃんと終盤まで流れるという配慮は良かった。あと裏ボスの曲は格好いい。
  3. 独自システム周りのツメが甘い
     オークションシステムは、自動売却対象の区分が大雑把。例えばロングソードとステッキじゃ性質が全然違うのに、区分は同じ低級武器扱いなので、片方でも不要ならまとめて売るしかない。数字区分もアイテム欄には記載がなく、図書館などで別途テキストを読む必要がある。また魔法も説明欄にランク表記がない。
     LBPシステムは、ウディタ作品では通常使わないSキーで振り分け用コモンイベントを呼び出す必要があるのに、説明書内にしかキーの説明がない。
     もう一息、というところ。根本的に駄目だってところはなかったから、もう少し煮詰めれば一気に良くなっていたと思う。

総評

 正直なところ、前作と違って手放しでおすすめは出来ない。単に見劣りするってだけでなく、シンプルなRPGでありながら展開に起伏がないため、本作単体で見てもやや辛いものがある。クライマックスは結構面白いのだが、その盛り上がりを感じさせるまでがちょっと長過ぎる。悪いゲームではないが刺激不足。前作と絡めて見た場合は、話の畳み方が関連ストーリーとして興味深く映る筈。終盤まで刺激が薄いという点は中々揺るがないが…。

 なんとも言えないオーラを出してる手描きモンスターたちと、クラシック曲をBGM採用したことで爆発している、タイトル通りの怪奇な雰囲気が楽しめるかどうかにかかっていると思う。

前作「恐怖!ムルムル遺伝症」との関係性について

 せっかくだから書いておく。ただし想像だらけだから鵜呑みにはしない方が。

 まず、本作はムルムルの前日譚になっている。後日譚ではない。これは確定事項。スタッフロールの最後にもこの事が明示されている。
 時間的にどれくらい前なのかは想像になるが、軽く20年は前か。ラストではムルムルの重要人物であるタツミやジェームズの影も見え隠れしているから、あんまり無茶な時間は挟まれてない気がするが。

 そしてメインキャラの2人であるノアとネルの正体は、恐らくカンパネルラとネネムの前身。同一人物なのかどちらも転生とか挟んでるのかはよくわからなかったが、多分そう。多分。根拠は髪の色や性格…以外にもある。

  1. 星の巫女の条件
     「心象使いが規定の試練を終えること」であることがルサルカで明らかになったのだが、ネネム達が心象を持っている気配は全くなかった。要するに2人はどちらもイレギュラーな巫女ということになる。
     そしてノアとネルも、最終的にはどちらも心象を持たない巫女として覚醒した。勿論二度は無いような経緯で。試練を突破すること自体が前人未到一歩手前な案件という情報も相まって、この後にまた2人心象なしの巫女が現れたとはやや考えにくい。
     …まあ、心象は譲渡や縁切りなどで失うケースがかなりあるから、結局は星の巫女であること自体の方が根拠としての重みは大きくなるが。
  2. ノアは「アクアク写本」を確定で手に入れる
     あるボスがドロップする、人間の腸で作られた巻物に禁断の呪術が書かれているという徹底的に禍々しい禁書。なのだが、ルサルカ内では最後まで使い道がない。ボスドロップ、かつ入手時は余裕が無いから手に入れた時のノア達の反応もない。最後の最後で、とある人物が意味ありげに本の重要性を説明してくるが、とにかくゲーム的には意味が無い。
     しかしムルムルだと重要な存在。ジェームズの狂気の実験に拍車をかけた存在はカンパネルラだけでなく、確かこのアクアク写本も一因とされていた。
     この本は作中世界に3冊しか存在せず、1冊は写本の写本で紙の本。ジェームズとノアが持っていた写本はどちらも腸の巻物と受け取れる説明文。なので最大5割の確率で同一存在ということになる。仮に同じ本で、ジェームズ側の本はカンパネルラが持ち込んだと仮定したのなら…。
  3. カンパネルラ達の過去
     ムルムルノーマルエンドでいくらか会話がある。取り分け印象的なくだりは、カンパネルラとネネムは実は親しい仲であることと、2人は過去に何かの選択の結果として誰かが死んでしまう憂き目にあったらしいこと。
     一方でノアとネルも深く長い付き合いになる間柄であり、シナリオのラストには後者の一件ではないかと思わせる展開が一つ。
  4. 象徴的なスキルの重複
     ノアとカンパネルラの星・光魔法、ネルとネネムの乱舞シリーズを中心に、双方で特異性のあるスキルがかなり被っている。ノア達の魔法は何れも希少属性扱いで、2種以上の被りは相当にレアケースだと推測できる。また、ネル達の乱舞に至っては2作品内で他の使用者がいない。

 まあこれくらい。テキストとにらめっこしながら考えに考え抜いたとかではないから、丸っきり見当違いの可能性もかなりあるが、取り敢えず主観では、本作の正体はあの2人の昔話なのだと思った。

 ■アイキャッチ画像出典:「怪奇!ルサルカ彗星館”潜”」付属画像素材