漫画感想:がっこうぐらし! 第9巻

特記事項

空気感染
 高校編のヘリ事故の時点で推測され、シェルターぐらしの人の死で既に確定的だったが、遂に正式な言及が入った。ウィルスは空気感染もする。ただし一般人にも免疫が多く見られる他、発症のペースは血液感染よりも非常に遅い。

 また、インフルエンザウィルスなどと同じく、時が経てば今の免疫で防げない個体が出始めると推測されている。ゆきたちは空気感染しなかったが、いつかはするかもしれないと。
 つまり安全地帯での自給自足が可能になっても、最終的には空気感染による全滅がほぼ約束されている。益々未来はなくなってきた。

くるみの限界
 もう意識があまりないらしい。完全にダメになる前に蒸発を考えるが、ゆきの説得でまだまだ行動を共にすることに。
 果たして救われる可能性はあるだろうか、もし救われるなら、世界も同様に救われる可能性すらある。現状の彼女は、自我を保ったまま奴らに襲われない新人類でもあるわけで、感染レベルを現状以下で食い止める方法が見つかれば、生存者に順次適用することで人類は一先ず助かることになる。
 とはいえそういうオチに転ぶかは未だに全くわからず、このまま普通に死んでしまう可能性もまだまだ覚悟していく必要があるが…。

タカヒトの最期
 武闘派リーダー。高上と同様、空気感染した。そして尋問の際に異常な必死さで「解毒剤」を要求したことで、全員に感染が発覚してしまった。「解毒剤」とは、高上以外も追加で感染しているという前提が無いと出ない発言なのでバレたのだろう。後は荒い息遣いなどといった発症者特有の症状か。
 ヤケを起こしバリケードを解除、奴らだらけにして解毒剤を要求するが、シノウの離反から形勢不利になり、逃走先でアヤカに突き落とされて死亡した。全然選ばれていなかった…

 最後の方にはかつて切り捨ててきた人々の幻覚を見ており、自分の行いを後悔している節がある。
 生きていくために非情なリーダーとなり、盤石な生存環境を築いてきたはずが、防ぎようのない不測の事態で大転落した哀れな人。7巻あたりの余裕ある言動が眩しい…。

アヤカの最期?
 気の向くままに自動車を持ち出し一人駆けていったが、無茶な急発進をしたためか速攻でエンストを起こし、そのまま包囲されていった。ギャグ。
 あえて描写を切っただけで、死んだものと考えて差し支えないと思われる。武器も食料もなし、恐らく行く当てすら特になしで飛び出しているので、仮にエンストしてなくても未来はない。

 しかし、7巻で彼女自身が「闇雲に救助を探しに行っても仕方ない」と発言しており、仮にそれが常識人を装うための発言だったとしても、事実なのは理解していたはず。穏健派とは相容れないにせよ、なんでいきなり駆け出した…?
 それに、武闘派の中では間違いなく最狂の存在(生きている仲間すら殺害していた)として描写されてきたが、蓋を開けてみたら、いなくても大筋に影響がないレベルで終わったのも引っかかる。本当は敵として次章でも続投するつもりだったが、路線変更された?あるいはこの絶望的な引きから生き延びるのだろうか。

 しかしながら、「選ばれた」を本作のネタ台詞として確固たるものにするという、大きな衝撃を残す消え方をした。キャラクターとしては理想的な退場の形だと思う。

武闘派のゆくえ
 タカシゲがくるみに攻撃を仕掛け反撃で死亡、アキとシノウが離反、アヤカが謎の自滅、他は全員感染やアヤカの凶行で死亡し、全滅した。
 地味。対人手段は明らかに成熟しており、交戦も勃発したものの、残した爪痕はほぼない。結局アヤカ以外は普通の学生がそれなりに生き抜こうとしていたに過ぎなかったということか。
 それでも惜しげなく死なせるため、死亡キャラは全員何かしらのクズ描写を入れられていたのでちょっと不憫。特にタカシゲは後出し回想でわざわざヒカを蹴り飛ばしてるから悲惨だ。

総評

 武闘派が崩壊したことで、大学編がおおよそ終わり。しかし上述のように、後に残るものがやけに少ない組織だったので、1巻丸々使ったのは正直冗長気味というか、武闘派自体が引き伸ばすための存在以外の何者でもなかった。穏健派とアキとシノウ、そしてそこそこの拠点機能が合流すれば十分だったところに、取ってつけた面倒事を入れた形だと思う。少なくとも本筋から脱線した展開なのは間違いないし、話が進まないという意味では良くない巻だった。

 ただ武闘派をここまできれいに片付けたのは意外だった。アヤカを始め、ある程度は不穏分子が残るものだと。だからこそ引き伸ばし要素だと思ったわけだし。
 逆に言えば、ランダルコーポレーションに突入したら、武闘派の残党なんていなくても十分なボリュームと複雑さを見せるということだろうか?…まあ、推定黒幕だから当然か。